おもしろいと思えるマンガを読んだとき、その作品を描いたマンガ家の先生がいるとともに陰に隠れた編集者がいることを忘れてはいけない。
世に出版されているマンガのほぼすべてがマンガ家と編集者の共同作業によって作品が生み出され、そして本屋さんに並んでいる。
そのマンガが売れるかどうかはもちろん作品自体がおもしろくないといけないが、描かれたマンガを客観的に見る編集者と出版社の影響によってマンガ作品の売り上げが大きく変わるといっても過言ではない。
マンガを描く人が増えた今日では、よき編集者と出会い、よき関係を築くことがこれからの新人作家先生にとって大切なことだろうと感じたマンガ家の実録奮戦記「連載終了!」を今回紹介する。
連載終了!少年ジャンプ黄金期の舞台裏 全1巻完結/ 巻来功士
あらすじ
「これ読んでほしい編集者、いっぱいいるわぁ」 森田まさのり(漫画家・『べしゃり暮らし』『ろくでなしBLUES』)
エロスやバイオレンスを描く異端の作家である著者は、ジャンプという少年誌でいかに戦い散ったのか。『北斗の拳』原哲夫氏のアシスタントを務め、『ジョジョの奇妙な冒険』荒木飛呂彦氏と競合、『メタルK』『ゴッドサイダー』など強烈な作品で異彩を放った作家が初めて明かす、実録奮戦記。
対談:堀江信彦(週刊少年ジャンプ5代目編集長・コアミックス代表)×巻来功士
「漫画家と編集者の、理想的な関係とは」収録
マンガ「連載終了!」との出会い
幼いころからマンガが好きで週刊少年ジャンプも読んでいたけれど、巻来功士先生の作品を読んだことがなかったレクシアです。
世代の違いという要因が大きいだろう。
巻来功士先生のマンガを読むきっかけが今までなかったのです。
そこで前回の記事にある通り、渋谷にあるマンガサロン「トリガー」に行くことがきっかけで「連載終了!」を知ったのである。
もちろん、イベントがとても楽しくて東方力丸さんの漫読が素晴らしかったのでサイン本を購入したのだが、マンガ家のリアルな生活や考えが描かれた実録作品で読めば読むほど考えさせられる、新人作家さんや編集者には特に読んでほしいと感じたのでこの記事を書くことにした。
実録としてのマンガ家人生記
マンガ家について描かれたマンガといえば「バクマン。」を筆頭に注目を集めているジャンルである。しかし、実録のマンガ家マンガといえばそう多くないと感じる。
まあーそれは当然で、マンガ編集部的にも描かれてしまうとまずい内情もあるからだ。
しかし「連載終了!」では、巻来功士先生の実録奮戦記として『北斗の拳』原哲夫氏のアシスタント時代や、『ジョジョの奇妙な冒険』荒木飛呂彦氏と競合していたときのこと、実在するジャンプ編集者の方が登場してそのときの様子が描かれている。
しかもなによりよかったのが、当時の状況を客観的に描いていること。
若い頃というのは独りよがりになりがちで、自分自身を冷静に見つめることはなかなかできなく無鉄砲に突っ走りがちだ。
もちろんそれはそれで若い頃のよさではあるのだけれども、自分自身を冷静に見つめると自分に対する謙虚さがでてくる。その謙虚な描写がとても読み進めやすくて、冷静にマンガ家の生活や人生というものを知ることができる。
この作品は完全に巻来功士先生しか描けない。なおかつ、若いマンガ家にも描くことのできない知的なマンガ家人生記なのである。
よき編集者とは?
マンガ家にとってよき編集者とよき関係性を築くことが本当に大切だと思う。
自分は編集関係の仕事をしているわけではないので詳しいことはわからないが、クリエイターの人だけで生み出した作品は独りよがりなものになりがち。
だからこそよきものということもあるのだが、客観性が著しく欠けて伝えたい意図がわからない場合がある。
そこで編集者が客観性もって作品を見ることがすごく大切であるし、打ち合わせと修正によってお互いの長所を認め短所を補いひとつの作品を作っていく。
この過程をうまく築きあげることができるとマンガ家と編集者のよき関係性が生まれる。
マンガのネームを読むまなざしや作品を読んで感じたことを真剣に話して打ち合わせをする。この姿にマンガ家の巻来功士先生は編集者を信頼していく当時の様子が描かれている。
一見、対人関係として当たり前のことのようで意外とできていないものなのだろう。
ただネームや原稿を受け取るだけの編集者が多いのかもしれない。
巻末に“対談:堀江信彦×巻来功士「漫画家と編集者の、理想的な関係とは」”が収録されているが、こちらを読むことをおすすめする。
堀江信彦氏の言葉が印象的だ。
堀江 「この人の絵にはどんな作品が合うんだろう?」とが「今、どんなものが当たっているんだろう」とか、自分なりのマーケティングもしてたんだよね。だからたまに見当違いのことも提案するわけ。「あの作品を土台にして~」とか色々言ってた。逆に漫画家さんも編集に頼ったりして、「漫画家と編集のカップル作品」っていうのができていったんだよね。
中略
例えばある編集部に行って、「この人ダメ」と思ったら、他社に行っていい編集と巡り合った方が、結果その人のためになるっていうのを僕は言いたい。「漫画家をやり続けた時、最後は絶対そこに気付くよ」と。「ブランドで決めるなよ」って。
このようにマンガ家のことを思って打ち合わせする編集がどれだけいるだろうか。
著者以外で一番作品のことを理解しているのは編集者のはずなのだ。
その編集者がよい作品をマンガ家と共に作り上げるだけでなく、多くの人が読んでくれるようにどうやって売るのか考え・取り組んでマーケティングしていくことが大切で、いい編集者に必要な条件なのではないだろうか。
マンガは、どんなにおもしろくても売れるとは限らないからこそ、よき編集者と巡り合えるよう新人マンガ家は意識して行動しなければマンガを描いて食っていくことは難しいのかもしれない。
今とは時代が違うかもしれないが、新人マンガ家にとって教科書のようなマンガでしょう。
自分はマンガや小説などの作家以外にも編集者が必要だと考えている。
自分の経験として、化学研究分野において産・学・官が連携した共同研究員をしたことがあるのだが、研究コーディネーター?という編集者のような立場の人がまったく機能していなかった。
研究分野においてもよき編集者のような人材が増えることを祈っている。
こんな人におすすめ!!
- マンガ家を目指している
- 編集のお仕事をしている
- マンガ家マンガが好き
- クリエイターおよび編集の仕事論を学びたい
【ゲスト:『連載終了!』巻来功士、漫読家・東方力丸】マンガサロン交流会 Vol.1 のイベントで巻来功士先生が言っていたのだが、マンガに描けなかったことはたくさんあるそうな…
「ヘタするとマンガ業界から追放されますわー」と笑いながら話す巻来功士先生の人柄は、マンガから思い浮かぶイメージよりもとても穏やかで、自分自身を冷静に見れる知的な大人になっていると感じました。
でもレクシアはまだ若いからか、「…オレは純粋培養じゃない…外様だしひねくれ者だ…」「少年マンガなんて描かないぞーっ!!」と突っ走る姿にものすごく共感しましたよ。笑
これからも功士鳥…いやいや、巻来功士先生のご活躍を応援しています。
巻来功士先生のサイン本!
今日のトリガーイベントでゲットした巻来功士先生のマンガサイン本「連載終了!」です。漫読でも楽しみましたが、今から読みます! pic.twitter.com/f0EFJAJIug
— レクシア (@hyper_lexia) 2016年4月15日
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