剣士や騎士といったキャラクターはよくマンガに出てきますよね。
剣で悪を切り倒す物語はわかりやすくもあり、ヒロインや優れた王に忠誠を誓う騎士の姿は感動を誘いやすいベタなストーリーにも繋げやすい。そういったことからなのか、ファンタジー物語には剣がよく登場する。
しかし今回紹介するマンガはひと味違う。勇ましくて強い女騎士は剣を振るいながら泣いている、勝ったら嬉しいものなのに涙を流し、そして忠誠を誓い護衛するはずの主君よりも自分が生きることを優先する。
いきものを傷つけるのが辛いのに生きるために剣を振るう騎士がいのちについて考える繊細なダークファンタジー物語です。
グレンデル 全3巻/ オイカワマコ
女騎士はなぜ剣をふるいながら涙を流すのか
剣を振るいながらも涙を流す女騎士カメリアは大罪人だ。
王女をお護りするどころか見捨てて逃亡した罪によって死罪が決まっていた。しかし、絶滅したと伝えられている竜の仔を保護する国まで送り届けるという密命を受けることで死罪は免れる。カメリアは騎士として主君にたてた誓いを恥ずかしげもなく破り、無様であろうと“生”にしがみついている。
王女を見捨てるような騎士なんてそんなに強くないんだろう、と思うかもしれないが聖騎士長よりも腕の立つほど強い。しかしその強さを己のためにしか使わず、可能な限り戦闘を避けるので騎士として致命的だった。
処刑を免れる代わりに伝説の竜の子を目的地まで護衛する旅に出る、という物語のエピソード的には王道ファンタジー的なのかもしれない。なのに、絵や戦うシーンから伝わってくるものはそこもかしこも悲壮感漂う重さを兼ね備え、カメリアは剣を振るって敵を倒しているのに涙を流している。
人やいきものの痛みを想って涙を流せるような尊い気持ちを持っているカメリア。剣士としては致命的で生き難いだろう。それでも「私は生きるんだ…!!」となんとしても生き残ろうとする姿と相反する感情に違和感を覚えるのです。
王女を見捨てて逃亡した罪を背負っているが、逃げなければ共倒れになってしまうという背景も描かれており、「好きで誓ったわけでもない奴のために死ねるか」と言うカメリアの気持ちもよくわかる。
いきものを傷つけることが宿命の騎士と竜の仔が、生きることやいのちについて考える物語でしょう。
自分のために生きる女騎士が、グレンデルを護衛していく旅の中でいのちについて考えていき、そしてどう変わり成長していくのかが気になってたまらなくなってしまうはず。
竜の仔グレンデルの素直なまなざし
全体的に悲壮感漂うダークファンタジーな物語ですが、伝説の竜の仔グレンデルは不思議とカメリアを達観しており、そしてたまに見せる素直さには普通の子供らしさを感じて安心する。
ふとしたこんなシーンには、なんだか優しさと安らぎを与えてくれる。グレンデルが「しゃくしゃく」と苺を食べる姿はなんだか可愛いくて、こういった場面が実は魅力的だったりもする。
そしてグレンデルから見たカメリアに対するまなざしが気になってしまうのです。
他人の痛みを感じてしまう女剣士―――
泣きながら戦い 泣きながら“生”にしがみつく彼女が憐れに思えて仕方ない
生きることにこだわるカメリアの過去になにがあったのか、彼女は剣士として憐れなのか、そしてグレンデルはどんな秘密と竜の力をもっているのか、生きることといのちについて考えながらしっかりと見届けたい。
こんな人におすすめ!!
- ダークファンタジー物語が好き
- 竜の伝説や西洋の騎士に惹かれる
- 生きることやいのちについて考えたい
- 泣きながら“生”にしがみつく彼女が憐れなのか見届けたい
今まで読んできた騎士の登場するマンガで、騎士の忠誠心に対する疑問符や生き残ることといのちについてここまで繊細に描いているファンタジー作品はほかにあっただろうか。日本の武士道系の作品だとあるかもしれないけど、西洋が舞台でかつファンタジーマンガではなかなかない気がしています。
いかにも、少年向け王道ファンタジー的な物語が好きな人には好まれないかもしれないですが、ダークファンタジーが好きで奥深き繊細な心を描かれたマンガが好きな人にはぜひ読んでほしいですね。
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