漫画は『結んで放して』巡りくる、かたちを変えた友達だ。

漫画は好きですか?ぼくは大好きです。

漫画が好きな人は、漫画との関わり方が主にふたつに分かれると思います。
漫画を描く人にもなるか、たくさんの漫画を読み続ける人。

ぼくは後者ですが、好きになるきっかけはみんなほぼ同じだと思う。面白い漫画を読んだ、ただそれだけ。でもそのあとに漫画を描いて友達を楽しませたいと思うのか、面白い漫画を友達と楽しみたいのか、という感じ方によって道が分かれてくるのかもしれません。

ただ漫画を描く人と読む人のどちらとも、友達が漫画を、そして漫画が友達を「結んで、ときに放して、そして巡ってくる」気がしていて、漫画はかたちを変えた友達のようなもの、と感じている今日この頃。

漫画を描き続けることと縁を切ることの難しさが描かれたマンガ『結んで放して』をご紹介します。漫画を描いたり読んだりして楽しむのに友達ってすごく大切なもので、漫画と友達とぼく自身の関係について考えてみたことも含めて記事にしています。

 

結んで放して 全1巻/ 山名沢湖

創作同人誌作りをテーマに、漫画を描き続けることの難しさと縁を切ることの難しさについても描かれた短編集で、「結んで放して」「映して描いて」「叫んで笑って」「放して巡って」の4タイトルで構成された本作品。「結んで放して」と「放して巡って」の物語はつながっていて、同人イベントのあと喫茶店のテーブルにいた4人の女性の同人時代から10年後までのお話について紹介します。

漫画を描き続けることの難しさとさびしさ

同人イベントのあと喫茶店のテーブルにいた4人の女性で、プロの漫画家となった千畝ただひとりとなった。そんなある日、もう描かなくなった憧れの人と街中で出逢うことから始まります。

憧れの漫画を描いている人から自分の作品を認められることで心に小さなともしびをもらった千畝はさらに漫画が好きになり、漫画家としてデビューする。憧れのルリさんとは仕事の関係で離れてしまったけど、プロとかアマとか関係なく漫画でつながっている。

そんな強い信念があったからこそ千畝は描き続けることができた。でも、友達のぴろりんは最近ネタがないのか描けていない。ルリさんとぶーすけさんも風のうわさで描かなくなったらしい。そんな千畝の心の中でくすぶり続ける、同人時代の憧憬、情熱、そこにあった原点の心情が、切なく静かに沁み渡る。

千畝は漫画家としてデビューしたから続けられるのか、いやそれだけじゃないことが伝わってくるのです。

ルリさんの言葉で燃える千畝
『結んで放して』 山名沢湖 P50

漫画を描き続けるのはものすごく難しい。いや、漫画だけでなく、なにかをずっと続けることは本当に難しい。仕事じゃなくて金銭的な見返りがなければなおさら。

彼女らやぼくたちにも、普段生活していくために仕事や家庭がある。ただ好きなだけで続けていけるほど簡単じゃない。ぼくの場合は、このサイト運営を続けていくことの難しさを痛いほど感じている。

好きって気持ちだけじゃなくて、あの楽しかった憧憬や原点が、憧れの人にまた出会えたことが嬉しくてそしてさびしくもあり、もしかすると呪いのようになってても、さらに燃えるともしびが彼女にはある。

彼女が憧れのルリさんに心から叫びたいと思ったことは、まちがいなく漫画を描き続けるプロの言葉。漫画を描き続けることの難しさとさびしさを知った彼女のことも眩しく映るかもしれません。

漫画がきっかけで、結んで放して、最後に漫画で巡ってくるお話ですよ。

友達が漫画を、漫画が友達を、結んで放して巡って

そして「放して巡って」では、憧れだったルリさんが主人公で友達・ぶーすけと行った中学時代の同人誌即売会から物語が始まります。中学生がのめり込むとあっという間に光の速さでその気になります。だけどある日ぶーすけが泣いた。お母さんに原稿破られた、と。

漫画に理解のある親や大人は最近漫画やアニメが認知されてきたとはいえ、まだそこまで多くはないでしょう。このマンガのように「幼稚な遊びにうちの子を巻き込まないで!」と友達の親に怒られたことがある人もいるのでは?

ぼく自身も同じ経験があります。高校生のころまでは漫画を読んで友達と話し、描いたりしていた。だけどちょっとずつ大人になってきて、みんな興味も分かれてきて、ある日言われた「まだ漫画なんか読んでるの?」。

彼女らもぼくも、自分達の甘さを思い知ったのです。それからぼくは漫画が大好きなことを人に言わなくなった。こっそりと自分だけで楽しんでいた。ある意味、漫画と距離をとって“放した”ことがある。

 

彼女らの場合、親元離れて漫画にのめり込んでいた。ぶーすけが東京にやってきて、社会人になっても仕事の後や休日にルリの部屋をアトリエにして、10年近く続いていた、そのまま続くと思ってた。でも、仕事の転勤がきっかけで…

何も言えなくてぶーすけを放してしまったルリ
『結んで放して』 山名沢湖 P148

ぼくの場合と状況とか、漫画を真剣に描いていたわけじゃないし、明らかに違う。でも、「もう何も言えなかった」気持ちはシンクロした。それだけじゃすまない震えと涙もあった。

 

ぶーすけという友達がいたから続けられたのかもしれない、漫画を描くことを。そんなふうに描くことをしなくなって母親になったルリさんは思っていた。そして、ぶーすけと子供の3人で、わくわくとどきどきと、ただそれだけで出来ている漫画が、かたちを変えて巡っている友達のような面白さがこのあと描かれています。

友達と漫画を作ると楽しいよ
『結んで放して』 山名沢湖 P168

漫画を描く人だけじゃなくて読む人のどちらとも、友達が漫画を、そして漫画が友達を「結んで、ときに放して、そして巡ってくる」かたちを変えた友達のようだと感じませんか。

ぼくも以前はひとりで読んでいて「別にオタクじゃないし!」と擬態してたけど、今では好きな漫画をできるだけ多くの人に読んでもらいたく、マンガレビューを足掛かりにマンガ家の先生方と読者を繋げることができるサイト運営を目指している

そうして最近気づいたことは、漫画は友達と一緒に楽しむとさらに面白くなる。そう思いませんか?

その気持ちわかる!って人はぜひコミックで、
これ『結んで放して』です。よかったら読んでやって下さい。
(上から目線ってわけでなく、本作品の内容と掛け合わせてます。一応ね…)

 

あとがき。

ぼくは今こうやって「好きなマンガを好きだ!」という、このマンガレビューサイト『HyperLexia(マンガ)』運営している(きっかけはいずれまた)。

そんなサイト運営をしているさなか、今ではまた周りの友達に「漫画がめちゃくちゃ好きな人です」と言えるようになってきて、友達が面白い漫画を教えてくれることで結んでくれます。たまに好みの差でケンカして放してしまうことも。

同じように、SNSなどで好きな漫画によって新しい友達を結んだり、場合によっては放したり、このサイトやTwitterや同じ好きな漫画を中心として巡りくる様が不思議とさらに漫画を面白くしてくれます。

まさしく、かたちを変えた友達ですね。
ぼくにとって漫画が好きな人はお友達です、あなたとお友達になりたいのです。

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