世界最強の魔女は辺境の森で暮らす。
ちゃらんぽらんで天才的な師匠と生真面目で焦る秀才の弟子の師弟物語。
特に珍しいものはないけれど…
最近は斬新な設定の物語を打ち出してくるマンガが多いが、なにげない雰囲気から引きこませて想像させる物語は実に面白い。それはまるで、マンガにかけられた幻想と魔法ではないだろうか。
『ニーナさんの魔法生活』 1〜2巻/高梨りんご
辺境の森に棲む世界最強の魔女の下にやってきた魔法使い見習いのアイリス。
アイリスは魔法学校優等生で、世界最強の魔女にはみえないニーナに訓練生として弟子入りする。ニーナは上級魔法も自由自在に使いこなすが構築式など魔法の初歩中の初歩も知らないようで、魔法どころか日常生活もいい加減。
もはや“世界最強の魔女”などではなく“世界一だらしない魔女”である。いわゆる、ちゃらんぽらんな天才型の師匠と生真面目で考えすぎな秀才型の弟子の日常生活を描いた異世界幻想譚…
ズボラでだらしなく面倒くさがりだけど、薬草の話になると目を輝かせて語りまくるニーナ。
薬草を育てるときは楽しみながら手間をかけ、自分がやりたくないことは圧倒的な上級魔法で楽をしようとする。抜けてるからか失敗もする。
狩りして捌いて工夫した料理は意外と美味しくて、真面目だけど魔法に行き詰まり親や過去に縛られた夢をみるアイリスでもなんだかんだで楽しそう。
そして街にくりだせばニーナは有名人。万人に優しさをふるまう母性あふれる姿から、ついたあだ名が“マザー・ニーナ”なのだが、道具屋のステアはアイリスにこう話す。
「ニーナは他人に興味ないから」と。
この物語の設定などはありふれたようでいて、なんだか引っかかってしまうところがある。この行き違いは、単に生真面目で魔法使いになることを焦る弟子の成長物語ではない、と。
街でも多くの人に慕われているので、ニーナがわざわざ辺境の地で原始的に暮らす理由が今のところ思いつかない。しかし読み進めていくうちに、アイリスも感じた書物と現実のギャップがあるように、人間ってのは自分たちの利権争いに関係のない種族まで巻き込み戦争をする。
「民族のための尊い兵士」として人間以外の亜人種を駆り出し、戦が減ればそうやって最後の尊厳を踏みにじられない為の“戦無し”にする。それが“魂の在り方”ってものらしい。
そんな、いろいろな人種、人が入り混じる世界で、悪戯や悪意をもって物語が穢れた魂や幻を垣間見る様子へ一転する様から、街は天才や秀才には生きづらい生活であり日常なのではないか。いや、むしろ天才や秀才が悪意に飲み込まれて加担してしまうからこそ、ニーナは街と距離をとっているような予感もさせる。
ちょうどよい関係を保つことができるからこそ、万人に優しく接することができ良好な関係を築けているのかもしれない。
また辺境の地で孤高に暮らせるような世界をつくることは、なかなかできるものではない。それだけでなく、辺境の森よりも深く答えの出ない孤独がつきまとう。
アイリスの過去や孤独に縛られている姿はもしかして、ニーナの昔の様子とそっくりなのかもしれない。もしそうであれば、アイリスにやたらぺたぺたスキンシップをするニーナの姿に納得してしまうのだけど、これから描かれるのではないかと期待している。
この辺境の森での魔法生活は、魔女の安息と再生のための“日常”ではないか。
こだわりを感じさせる小道具やえらく描きこまれた街の描写から、ふたりの過去や隔世の物語にはとてつもない穢れと闇の底深さが秘められているのではないかと想像してしまう。きっと天才や秀才の魔法使いだけでなく、現代の街は底知れない闇に巻き込まれやすい。
もしそれに疲れたときは、『ニーナさんの魔法生活』のような“日常”で休んでみるのも悪くない。
それにしてもマンガに描かれた幻想と魔法の物語が、魔法を構築する以上に想像力をかきたてるのだが、自分は魔法にかけられているのかもしれないと思った。
あと、ニーナさんの自由気ままでちょっとセクシーな姿に惚れてしまったことも魔法のせいにしておこう!
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