自分自身に呪いをかけないで。マンガ『ランド』の社会も現実社会も不安なものなのだから

ひとは皆ほぼ例外なく社会や集団のなかで生きている。

この社会で生きていると、大なり小なり集団のなかで日々過ごしているだろう。例えば、学校や会社や住んでいる地域の人々や友達グループ、そして家族など。人間社会があるからこそ日々の生活を豊かに生きることができている。

しかし人間社会がいいことばかりではないことを多くの人が感じていると思う。なぜか?と問われてもはっきりと答えることのできない、漠然とした不安も抱えているはずだ。

人間社会ではひととかかわらずにはいられないので、他人から縛られ呪いを受けることがある。また、不安渦巻く人間社会の恐ろしさを実感することで、自分の考えや行動を縛って自分自身に呪いをかけてしまうこともある。今回紹介するマンガはそんな作品。

 

ランド 1~7巻/ 山下和美

このマンガ『ランド』では、人間の暮らす「社会」をテーマにしていると感じる。

神に見守られて暮らす村人たちを縛るしきたり、風習、凶相があり、そして山に囲まれている不思議な村『ランド』の光景。古き時代なのか農作物を育てて暮らしているので機械なんてないし、文字すらもない。そして、~その村では人は必ず50歳で死を迎える~というしきたりが存在し、神のために生け贄も捧げる。

この物語の主人公は、杏という好奇心旺盛で「知りたい!」という欲求の強い女の子だ。そして凶相であるとして実の父親である捨吉に捨てられた双子の姉・アンがいる。杏は村ですくすくと育ち、アンは山の中で捨吉と「この世」を恨みながら生きていた。

『ランド』の村では人や占いによる不安が渦巻いている。占いが凶とでたため四ツ神様を怒らせているだとか、災いの子アンを生け贄に捧げろなどと、役人が村人を取り仕切り扇動している。そんな村人たちの不安から、たとえどんなに普通を意識して真面目に生きてきたとしても、処刑せよと捕らえられる杏の叔母である真理おばさんがいる。

「ランド 2巻」 山下和美 P255 (モーニングKC)
「ランド 2巻」 山下和美 P255

このような人々の不安から生じる集団的な圧力や行動は『ランド』の村のなかの社会のことだけなのだろうか。現実社会でも同じようなことが起きていないか?そう考えさせてしまうような魅力がこのマンガにはある。

我々が生きている現実社会でも、真理おばさんのように普通に生きることを子供に望む親や周囲の人々がたくさんいる。そして、彼女のように普通に真面目に生きてきたとしても、なにも悪くないとしても世間に淘汰されて人生が転落してしまうこともある。さらには鬱などの心の病を患ってしまう人もいる。実際にこのマンガでも…

人間社会で生きていくと、他人から縛られ呪いを受けることは多少なりともあるだろう。

しかしこのマンガで描かれている社会での不安や呪いはそれだけでない。最近発売した第3巻では、好奇心旺盛で行動力のあった杏が、後悔がゆえに普通に生きていこうかと不安になっている。

「ランド 3巻」 山下和美 P149 (モーニングKC)
「ランド 3巻」 山下和美 P149

自分の考えや行動を自分自身で縛って、自分自身に呪いをかけてしまうこともある、ということを強く感じたのである。これは私たちにも身に覚えのあることではないだろうか。

好きなものがあって、やりたいことがあって、何かにチャレンジしたけども失敗してしまうことはよくあることだと思う。そんなとき、先ほど述べたように周りの人にいろいろ言われることがある。そして、自分には無謀な夢なんじゃないかとか、みんなが言うように身の丈に合った生き方をするほうがいいんじゃないかと、普通に生きた方がいいのではないかと、不安になる。そして自分自身に呪いをかけてしまう。

そこで「自分で自分にかけた呪いに はまってちゃ駄目だよ」と和音は杏に言っている。彼からはまるで、山下和美先生が不定期連載している『不思議な少年』のような雰囲気を感じる、まだまだ正体不明の人物だ。

ひとが生きているあいだ「人生」のなかで、不安という感情からは逃れられない。

独りでいると孤独を感じて不安な思いが頭をよぎることはよくあるだろう。また、友人や恋人もしくは家族など誰かといれば不安がなくなるというわけでもなく、孤独になるかもしれないというかたちで不安になることもある。さらに考え出すと「自分の人生はこのままでいいのか…」など漠然とした不安からも逃れられなくなる。

だからこそ、『ランド』の社会も現実社会も自分も他人も不安で溢れていて不安定なものなのだから、自分自身を生き抜いてほしい。この社会を希望にするのも絶望にするのも自分自身だ。これがこの作品から伝えたいことではないかと感じている。

ちなみに、物語は『ランド』の世界と近代社会が繋がっていることを連想させてくれる。これほど続きが読めないマンガはそうそうないので、これからもどう物語を展開させていくのか楽しみだ。

 

あとがき。

このマンガは正直言って、分かりやすい内容のマンガではない。そして、社会や人生に対して不安を感じているから読むとすっきりする、というたぐいのものでもない。むしろ、不安をさらに煽るものかもしれない。

そもそも、社会や自分への漠然とした不安には正しい答えがあるものではないと思う。自分自身にちゃんと向き合うことはしんどいかもしれないけれど、なにに対して不安を感じているかを知ることは自分をセルフコントロールするためにも大切なことだと思う。

『不思議な少年』もそうなのだけど、大人向けのマンガなのかもしれませんね。

あと、自分は杏と同じような思いをしたことが何度もあるので、共感せずにはいられない。なんとなく、和音や『不思議な少年』のような友達がほしいと思っているレクシアです。

 

ランド 試し読み|モアイ

マンガ家「山下和美」先生の言葉

このマンガを描いている山下和美先生から読者に向けてのコメントを頂きました!

普段考えていることはキャラクターが話してくれるなんて、マンガ家の先生ならではの言葉と表現方法だと感じるコメントありがとうございます。

やはりマンガには、言葉に表せない想いが込められている魂の作品なんですね。自分自身を生き抜く未来やその過程がわからないからこそ、物語の展開も読めない未知数なマンガになっていて、おもしろく共鳴する作品になっていると感じました。

『ランド』の未知数な世界観とともに『不思議な少年』の人間を見つめる物語を楽しみにしつつ、山下和美先生をこれからも応援しております。

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