職業上の責務や利害、或いは野生的な肉の欲求、そんなものを排した愛情の交流。
おっさんになると、いや、そうでなくとも、そんな清い愛の交流がしたくなる。
ああしかし、それはなんだ?
歳を重ねれば重ねるほど、欲望、支配、恐れ、それらの目的を持たない愛情の交流というものがわからなくなる。
それなのに人は、幻灯のような一瞬の恋をしてしまうことがある。あの時間たしかに私達は恋人同士だった。まるで『官能先生』のように、言葉が、このパッションが、恋があふれてしまう。
官能先生 第1~2巻/吉田基已
きつねに化かされているのかと思うような出逢いと一目惚れ。
それは相手が美しすぎるというだけでなく、お祭りの日、見当違いで前触れのような占い、奏でる鈴の音、人の波に紛れるきつねのお面、転びそうになるとこを抱き留め、下駄をなおしながらすこし言葉を交わした。
もう二度と会うこともないだろう。それゆえ、幻灯のような一瞬の恋をしたのが鳴海六朗。40男独身。
あの時間たしかに私達は恋人同士だった。と邂逅し、おまつりで浮かれてる人間をからかってやろうと思ったきつねの恋物語の筋書きを考えるほど、六朗は夢中で妄想していた。
その美しい娘は、よく通う喫茶店の店員だった。名は、水川雪乃。22歳と若い。
このマンガは、小説を書く六朗と雪乃の清らかな愛情の交流について、真面目で淫らな愛の話である。
さて、『官能先生』なんていうタイトルだから、 てっきりエロいのかと想像するかもしれない。ポルノ小説のような、読者の欲求や官能に訴えかけられる赤裸々な愛の描写。はれんちだ。
それもそれでいいものだが、本作はそれから溢れる雫を少し垂らしたような、清らかな愛情の交流を描く真面目で淫らな愛の話。冷淡なふるまいから急にすごく色っぽくなる雪乃の描写。中年で文学的な六朗にうずまくエロが露悪する。それは大人のラブだ。
出版社の編集として働くさなか小説を書き、着物を着て子どもとたわむれてはいるが、どんなにすましても隠しきれないエロいサガが読者には滲み出て見てとれる。
六朗はいやらしいひと。
それでもやはり、清い愛の交流がしたい…その気持ちがよくわかる。しかし、大人になればなるほど、欲望や支配欲や恐れなど清らかなでない目的を全く持たない愛情の交流とは幻想であることも知っている。
そんなのはいけない、という、お忘れになってください、という、ふたりの恥じらいと欲望のせめぎ合いに生々しく濡れてしまう。熱くなった身体を持て余してしまう。
今の六朗には恋の、いや愛の言葉があふれている。雪乃を逃さないように、こぼさないように。あふれる。そしてなお、小説を文学をつづるように言葉は満ちる。
いずれふたりの間には言葉もなにもいらなくなるまで、私は六朗と雪乃を見守っていたい。自分を慰めるのはそれからだ。笑
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