辛そうな人を見ると放っておけないのが昔からの性分で、誰かの力になることで自分が満たされるような、八方美人なお人好し。そんな人があなたの周りにいないだろうか。
人に好かれたいからなのか、それとも人に嫌われたくないからなのか。
それともただ、自分が大好きなだけなんじゃないだろうか…。
お人好しな人をみて、私はこんなふうに思うことがあるのだ。そして、あなたは「何で」そんなにもお人好しなんですか? と聞いてしまいそうになる。だけどその言葉は相手を傷つけることもあるし、聞いてもあやふやな答えしか返ってこない。
彼女らは「何を」思い「何で」お人好しになってしまうのか。何で人は好きな人でさえも裏切ってしまうのか。『いつか私は、君を裏切る』は、恋から生まれる苦しさや寂しさと醜さを、深い笑顔で魅了させてくれる。
『いつか私は、君を裏切る』全3巻 桜井瑞希/まんがタイムきららフォワード
人が「何か」を行う時、それには必ず理由がある。その「何で」を追い求める孤独な少女、ウイレンさんこと初恋初恋(ういれん・ういこ)。そんな彼女に魅入られた「お人好しすぎる」と皆に言われる女教師、アイコ先生こと独善愛衣孤(ひとよし・あいこ)。
二人がいる学園では、わけのわからないメッセージカードが鞄に入れられてたり、柔道着がボロボロに悪戯されていたり、次々と人形が置かれる謎や事件が起こる。
アイコ先生は、誰にでも優しく誰とでも仲良くし自分よりも他人を優先するせいか、お人好しな先生として生徒に頼りにされている。相談に来た生徒の悩みを聞いて、なんとか手助けしようとする。そこでウイレンさんは、人が「何で」それを行い「何を」思い「何で」間違いを犯したのか、その「何で」を知るのが好きなので、その生徒やアイコ先生に協力することになるというあらすじ。
学園内の恋愛感情から起こる謎や事件を解いていく、百合×裏切りの青春ミステリだ。
女子生徒が多いこの学園で起こる事件は、女の子同士の恋という百合の関係や友情、憧れ、自己愛、嫉妬などの感情がきっかけのよう。人の悩みはいつだって人間関係だ。だから人は簡単に人を裏切るのだけれども、とくに女性同士の人間関係は男性にはわけが分からないほど複雑に絡み合い、怖くなる。なのに百合特有のかわいさと色っぽさにそそられてしまい惹きこまれていく。
百合×愛憎×ミステリの掛け合わせが思いのほか良く、重くなりすぎず浮かれすぎず、物語と人間関係の描写に深みが出ているのが抜群に面白い。
第1巻の終盤から2巻のはじめにかけて、アイコ先生の過去とウイレンさんとのやり取りが重なり、お人好しであるアイコ先生の苦悩と葛藤がとくに秀逸だ。
あなたは「何で」そんなにもお人好しなんですか?
人に好かれたいからですか? 人に嫌われたくないからですか? それともただ…自分が大好きなだけですか?
このようにウイレンさんは、アイコ先生に聞く。そしてアイコ先生は昔同じようなことを友達に言われたことを思い出すのだ。
自分に責任がかからず、自分が本当に苦しむことのない範囲までしか、アナタは他人に踏み込んでこない。踏み込んで自分が苦しむのが怖いから。と言われたあの日。
それからアイコ先生は、誰にも必要とされないのが怖い。いらないのは自分だけな気がして怖い。誰にも愛されないのが怖い。大人がこんな風に思うのは、間違っているのかな? と自分の醜さを自覚しながら葛藤している。罪悪感、後悔、嫌悪感、擁護、慰め、自愛とともに。
私はどちらかというと、お人好しからは程遠くウイレンさんのように「何で」を知りたがるタイプの性格で、同じようなことを人に聞いてしまったこともある。たとえ相手がいい人とわかっていても自分が好きな人であろうとも、取り繕ったただの偽善者にみえてしまうことがある。だから、そんな彼女らが「何を」思っていたのかをわかりたいと思っていた。
もちろん、本作を読めばあの人は「何で」お人好しなのかわかるとは言わないけれども、どんなことを思い、葛藤しているのかを想像することができると思う。しかしどんなに人の気持ちを知ったとしても、わからないこともあるけれど…。
ねぇ、何で人は好きな人でさえも裏切ってしまうんでしょうね。
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