『さよなら、またね。』って、うれしくて泣きたくなる思い出だ。

むかしの、何気ない思い出に救われてたこと、支えられてたことがある。

さみしいときや苦しいときに、なにも考えたくないのにうっすらと蘇るほろ苦い記憶。そばにいたあなたがぼくにしてくれたこと。それはきっと、特別なんてものじゃなかったかもしれないけど、ぼくはうれしかった。もしまた会えるのならお礼を言いたい。ありがとうございました、と。

そんな切なくてほろ苦い思い出がつづられている『さよなら、またね。』は、むかしの何気ない思い出に鮮やかな彩りと凍えるさみしさに届く暖かさに美しい色をつけてくれる。

 

さよなら、またね。 フルカラー作品集/ 優

ヤングエースに掲載中の『五時間目の戦争』やマンガ版『おおかみこどもの雨と雪』を描く優先生が、以前同人誌として発行していたものを単行本化した一冊。

 

表題作の「さよなら、またね。」は、今はあまり絵を描いてない井上さんの元にぼんやり透明人間のような幽霊・篠原くんが訪れる。生前の篠原くんに描いた似顔絵姿のままで現れたのだ。彼女はもう彼が元気になれないとわかっていたので、テキトーに描いたら大泣きされたという思い出がある。

しかし彼はいじめられたから化けて出てきたわけではなく、お礼を言いに来ていた。病気でめったに学校に来ないから透明人間って言われてた自分を描いてくれたことがうれしくて、大泣きしてたのだ。

絵は今も描いていますか?と彼はきく。ぼく井上さんの描く絵が好きでした、とも。だから生まれ変わる前に、今まで本当にありがとうございました、とお礼を言いに来た別れ話。

悲しいから泣くのではなく、嬉しいから泣くときもあり、哀しくて泣き、笑いながら泣く。

さよならをしてまた会うときは、うれしいだろうからちゃんと笑ってまた泣いてしまうだろう。

 

他にも、大好きな先生の為にウエディングドレスを試着する「なつのいと」、つけられたアザがいつまでも消えない「きずあと」などがあるが、魂と身体を引き離されてキカイとして生きるおにいちゃんと生身のいもうとのお別れ「はるのはな」がとくに素晴らしい。

どんなにかなしくてもなみだがでないことはつらい。でも、そばでおもいきりないたりわらったりしてくれることに、ぼくもすくわれる。わらってほしい、ぼくもわらっていたい。そんな思い出はいつまでも消えない暖かさをもっているはずだ。

 

なおこの短編集はフルカラーの美しいイラストで紡がれているので、むかしの何気ない思い出に鮮やかな彩りと凍えるさみしいときに届く暖かさに美しい色をつけてくれると思う。

最近は線画に自動着色してくれる精度の高いサービスがあるみたいだが、本作のような色使いやタッチは人工知能には絶対にできないだろう。優先生だけにしか描けないカラーイラストの魅力が存分に楽しめる素晴らしき作品集をぜひ読んでほしい!

 

マンガ家・優先生の言葉

このマンガの著者である優先生から読者に向けてのコメントを頂きました!

さみしいときや苦しいとき、あのひとに会えなくて心がくすぶっているときに寄り添ってくれる作品だと思う。この本を抱えて泣きながらも、また笑ってほしい。きっと、あたたかくて大切なものを思い出させてくれるはずです。そんな優しい短編集。

『五時間目の戦争』も最終話が掲載中ですが、完結4巻の発売を楽しみにしております。

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