年の離れたあなたといると落ち着くのはなぜだろう。
同世代の友達よりも居心地が良くて、変に気を遣うこともなくそばにいたくなる。ぼくはきっと、5歳以上年の離れた友達の方が多いと思う。そして会わなくなって、たまに思い出す人もいる。
年の離れたあなたはまるで未来と過去の自分のように思えてくるのだけれども、年の近いあの人やこの人にはないあたたかさをあたえてくれる。だけど、その差はずっと縮まることはなくて、ふとさみしくなる。
そんな年の離れた友人や恋人がいる人には『おとなとこども、あなたとわたし。』が、二人のあたたかくてさみしくなる関係性のよくわからないモヤモヤしたところをみせてくれるだろう。
おとなとこども、あなたとわたし。 全3巻/糸なつみ
第1巻と第2巻を同時刊行した本作は、年の差から生まれる3つの物語を描くオムニバスだ。
援交をした父を持つ青年のんとただただ純粋な少女育(いく)ーーー年の差7歳「箱の中」
この物語は、恋になりそうでなれない異性関係についての年の差が描かれている。
のんは同級生に噂され母親の目もあって、エレベーターの中よりも狭く閉じ込められたように窮屈な思いをしている。父親に嫌悪感があっても、そばに寄ってくる育といると気が楽で、つないだ手がほんの少しあたたかい。小さい箱の中でも二人でいればこわくない、一人よりも二人の方がぜったいにいい。だけど兄妹にも似た親密な関係は、むかしとは変わっていて…というお話。
ぼくも年の離れた異性の方が、上下にかかわらず気を遣ったり変に性を気にしなくて済むので気が楽だ。なんでか自然体でいられるような気がする。手をつなぐなどの他人にふれることへの障壁が低くなるのもあるかもしれないが、こどものような様子がうらやましくて自分も同じようにいられる。そばにいるときだけでも、おとなでいなければならないことを考えなくてすむからかもしれない。
だけど、あなたの急に放つおとなびた視線や表情にめまいがすることもある。それがきっかけで離れてしまった。この第2巻の続きには、ぼくとあなたが分かれたそのあとが描かれているのではないかと期待してしまう。自分の弱さを謝りたくても会いにいけないけど、傲慢だとしてもそう祈ってしまう。
そしてこのあとの2つの物語は、男・女同士の年の差がある同性関係について描かれている。
妻を亡くした老人と、その妻に想いを寄せていた三十路男ーーー年の差40歳「一枚の絵」
恋愛興味なし新人OLと、彼氏なしアラフィフ美魔女OLーーー年の差27歳「ランナーズ」
ぼくは男なので「一枚の絵」に強く共感して、あの人も思い出す。
三十路まであと少しで、おばちゃん専とまではいかなくてもおねえさん専であり、さらには育ちまで重なって「愛に飢えてて孤独う~な人なんだって♡」と同じようなことを言われたことがあるぼくは、蒲田は自分自身ではないのかと勘違いしてしまいそうになる。たぶん白川じいさんとも似ているガンコ者。
きっと、さみしくてこどもなんだと改めて実感させられた。
だからこそ、おとなでこどもらしき貴重な友達だったあなた。自分に似ていて同じような哀しみを分かち合えるからこそ、同世代の友人にはないあたたかさと、そして彼に自分の未来を重ねた。意地を張ったり引き離すようなことを言わなければよかったと後悔している。まだまだぼくはさみしい男のままなので、未来のようなあなたの幸せな姿をみたくなる。
逆に「ランナーズ」は女性同士の年の差から生まれる物語で、一見すると少しも似ていないが実は似ている関係だ。女性の方もきっと上下どちらかで自分に重ねてしまう人もいると思うのでぜひ読んでほしい。なおこの作品はサブキャラもいい関係性を生み出している。「一枚の絵」に登場する女子高生の千佳ちゃんとか、いいかんじ。
第1巻では、年の離れたあなたは、わたしの過去と未来のようであたたかい。そして第2巻で、その年の差は、一生縮まることはないと実感させられてさみしくなる。第3巻では、どうなるのでしょう。
人には時間だけは平等に与えられていて、過ぎ去っていった時間は巻き戻せない。年の差は決して縮まることはなく、同じ年になるころには関係性も変わってくる。だからこそ、おとなとこどもであり、あなたとわたしの年の差があるゆえに生まれた関係を大切にしていきたい、と本作を読んで感じたせつなさ。
あたたかいあなたとの幸せを、祈るように思い出すさみしさがしみる。
コメント